竹取物语.docx
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竹取物语.docx
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竹取物语
[古文・原文]
竹取の翁、竹を取るに---いとかしこく遊ぶ。
[現代語訳]
竹取のお爺さんが竹を取る時に、この子を見つけてから後は、竹の節と節の間ごとに黄金の詰まっている竹を見つけることが続きました。
そうして、お爺さんは次第に富裕(お金持ち)になっていったのです。
この子は育てているうちに、すくすくと大きく成長していきました。
三ヶ月くらい経つと、人並みの背丈がある立派な人になったので、髪を結い上げる成人の儀式をして裳を着せました。
部屋の几帳の中から外にも出さず、(箱入り娘のようにして)大切に育てていました。
この子の容貌の美しさは世に比肩するものがなく、家の中には暗い所がないほどに光が満ちています。
お爺さんは気分が悪くて苦しい時でも、この子を見ると、苦しさが消えました。
腹立たしいことがあっても自然に慰められるのです。
お爺さんは黄金の詰まった竹を取るということが長く続きました。
その結果、勢いのある富豪になりました。
この子はとても大きく成長したので、三室戸斎部の秋田という名士を呼んで名前を付けて貰いました。
秋田は『なよ竹のかぐや姫』と名付けました。
この後の三日間は、打ち上げをしてお酒を飲んで楽しみました。
詩歌・舞など色々な遊びもしました。
男という男を誰彼構わずに呼び集めては、とても盛大な祝宴を催したのです。
[古文・原文]
世界の男(をのこ)、あて(貴)なるも卑しきも---来ずなりにけり。
[現代語訳]
世の中の男はみんな、身分が高いものも低いものも、何とかしてこのかぐや姫を手に入れたい、妻にしたいと思い、彼女の噂話を聞いては恋心を募らせていた。
翁の家の垣・門からも見えず、屋敷に仕えている人でもその姿を簡単には見ることが出来ないのに、男たちは夜もほとんど眠らずに出歩いて、屋敷の周囲の垣根や門に穴をこじ開け、中を覗き見してはうろうろとしていた。
この時から、このような行動を『よばい(夜這い・求婚)』というようになった。
男たちは人が思いもつかないような場所まで歩いて回っているが、何の効果もない(かぐや姫の姿を見ることはできない)。
屋敷の人たちに話しかけてみようとするが、話しかけてみても相手にされない。
屋敷の周りを離れない貴族の若者たちは、そこで夜を明かして昼間もうろつく者が多かった。
求婚の意志が弱かった者は、『無意味に歩いて回っただけで何も得るものは無かったな』といって来なくなった。
[古文・原文]
日暮るるほど、例の集まりぬ。
あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌(しゃうが)をし、あるいはうそ吹き、扇を鳴らしなどするに、翁出でて言はく、『かたじけなくきたなげなる所に、年月を経てものし給ふこと、極まりたるかしこまり』と申す。
『「翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ公達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ」と申せばことわりなり。
「いづれも劣り優りおはしまさねば、御心ざしのほどは見ゆべし。
仕うまつらむことは、それになむ定むべき」と言へば、これよきことなり、人の御恨みもあるまじ』と言ふ。
五人の人々も、『よきことなり』と言へば、翁入りて言ふ。
かぐや姫、『石作の皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり、それを取りて賜へ』と言ふ。
『庫持の皇子には、東の海に蓬莱(ほうらい)といふ山あるなり、それに白銀(しろかね)を根とし、黄金を茎とし、白き珠を実として立てる木あり。
それ一枝折りて賜はらむ』と言ふ。
『今一人には、唐土(もろこし)にある火鼠(ひねずみ)の皮衣を賜へ。
大伴の大納言には、龍(たつ)の首に五色に光る珠あり。
それを取りて賜へ。
石上の中納言には、燕(つばくらめ)の持たる子安の貝、取りて賜へ』と言ふ。
翁、『難きことにこそあなれ。
この国にある物にもあらず。
かく難きことをば、いかに申さむ』と言ふ。
かぐや姫、『何か難しからむ』と言へば、翁、『とまれかくまれ申さむ』とて、出でて、『かくなむ、聞こゆるやうに見せ給へ』と言へば、皇子たち、上達部聞きて、『おいらかに、あたりよりだにな歩きそとやのたまはぬ』と言ひて、倦(う)んじて、皆帰りぬ。
[現代語訳]
日が暮れる頃、いつもの五人の求婚者がやって来た。
ある者は笛を吹き、ある者は歌を謳い、ある者は大言壮語し、ある者は扇で音を鳴らしたりしていた。
翁が表に出てきて言った。
『皆さんのような高貴な方々が、このようなむさ苦しい粗末な家に、長い間お通い下さって申し訳なく思っています。
』と申し上げた。
『「このわしの命も今日明日とも知れないのだから、このように熱心に求婚して下さる皆様のお気持ちをよく見定めた上で、その中から結婚相手を決めなさい」というこの世の道理を姫に申し上げました。
姫は「どなたの愛情にも優劣は付けられないので、私の願いを聞いてくれるかどうかで愛情の深さが分かるはずです。
どなたと結婚するのかは、それによって決めます。
」というので、わしもそれは良い考えだ、その選び方なら恨みも残らないだろう。
』と申し上げたのです。
五人の貴公子たちも、『それは良い考えである。
』というので、翁は屋敷に入って言った。
かぐや姫は、『石作の皇子は、仏の御石の鉢というものがあるので、それを持ってきてくださいね。
』と言った。
『庫持の皇子には、東の海上に蓬莱山という山があり、そこには、白銀の根を張り、黄金の茎を持ち、白い宝石の実をつける木があります。
その木の枝を一つ折って持ってきて下さい。
』と言った。
『もう一人には、唐(中国)の国にあるという火鼠の皮衣を取ってきて下さい。
大伴の大納言には龍の首にかかっているという五色に輝く宝石を取ってきて下さい。
石上の中納言には、燕が持っているという子安貝を取ってきて下さい。
』と言った。
翁は、『これは難しい課題ですな。
この国の中にあるものでもないし、このような難題をどのように伝えれば良いのか。
』と言う。
かぐや姫は、『どうして難しいのでしょうか。
』と言うが、翁は『とにかくこのことをお伝えしましょう。
』と言って出て行った。
『姫はこのように申しているので、姫が言っている通りの物を取ってきて下さい。
』と言うと、皇子と貴族たちの五人はそれを聞いて、『こんな無理難題を言うのなら、どうして初めから屋敷の周りさえうろつかないようにと言ってくれないのか。
』と言って、がっかりしながら、みんな帰ってしまった。
[古文・原文]
その中に、なほ言ひけるは、色好みと言はるる限り五人、思ひやむ時なく夜昼来ける。
その名ども、石作の皇子(いしつくりのみこ)・庫持の皇子(くらもちのみこ)・右大臣阿部御主人(あべのみうし)・大納言大伴御行(おおとものみゆき)・中納言石上麻呂足(いそのかみのまろたり)、この人々なりけり。
世の中に多かる人をだに少しもかたちよしと聞きては、見まほしうする人どもなりければ、かぐや姫を見まほしうて、物も食はず思ひつつ、かの家に行きて、たたずみ歩きけれど、かひあるべくもあらず。
文を書きてやれども、返事もせず、わび歌など書きておこすれども、かひなしと思へど、霜月・師走の降りこほり、水無月の照りはたたくにも、障らず来たり。
この人々、ある時は、竹取を呼び出でて、『むすめを我に賜べ(たべ)』と伏し拝み、手をすりのたまへど、『おのがなさぬ子なれば、心にも従はずなむある』と言ひて、月日過ぐす。
かかれば、この人々家に帰りて、ものを思ひ、祈りをし、願を立つ。
思ひやむべくもあらず。
『さりとも遂に男合はせざらむやは』と思ひて、頼みをかけたり。
あながちに心ざしを見え歩く。
[現代語訳]
求婚者の中でも、言い寄り続けたのは、恋愛上手(女性好き)と評される五人の貴公子で、諦めずに夜も昼も屋敷へとやって来た。
その五人の名前は、石作の皇子、庫持の皇子、右大臣阿部御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂足といった人たちである。
彼らは世の中に多くいるような感じの女性でも、少し美人であるという噂を聞けば、付き合ってみたいと思う色好みの人たちであり、かぐや姫に逢いたいと思って、食事もせずに思い続け、屋敷を訪ねてうろうろ歩いていたが、やはり逢うことはできなかった。
手紙を書いて送っても返事がない、嘆きの歌を詠んで贈っても返歌はないという感じで、男たちはどうせ無駄なことだとは思っていたのだが諦められず、十一月・十二月の雪が降って氷が張る季節にも、六月の日差しが厳しくて雷が鳴り響く季節にも、それらを物ともせずに通い続けた。
貴公子たちは竹取のおじいさんを呼んで、『姫を私に下さい』と伏してお願いしたり手を合わせたりしたが、おじいさんは『私たちの本当の子ではないので、私の思い通りにはならないのです。
』と答えるばかりで、月日が流れていった。
こういった感じで、五人は自宅に帰っても、かぐや姫の事を思うばかりで、祈ったり願を掛けたりしている。
『そうは言ってもいつかは誰かと結婚させるはずだ。
』と思って、求婚の願いをつないでいる。
自分の気持ちの強さを示すために、頻繁に屋敷の周りを歩いていた。
[古文・原文]
これを見つけて、翁、かぐや姫に言ふやう、『我が子の仏、変化(へんげ)の人と申しながら、ここら大きさまで養ひ奉る心ざしおろかならず。
翁の申さむこと、聞き給ひてむや』と言へば、かぐや姫、『何事をかのたまはむことは承らざらむ。
変化の者にて侍りけむ身とも知らず、親とこそ思ひ奉れ』と言ふ。
翁、『うれしくも、のたまふものかな』と言ふ。
『翁、年七十に余りぬ。
今日(けふ)とも明日とも知らず。
この世の人は、男は女にあふことをす、女は男にあふことをす。
その後なむ門(かど)広くもなり侍る。
いかでか、さることなくてはおはせむ』
かぐや姫の言はく、『なんでふさることかし侍らむ』と言へば、『変化の人といふとも、女の身持ち給へり。
翁のあらむ限りは、かうてもいますがりなむかし。
この人々の年月を経て、かうのみいましつつのたまふことを思ひ定めて、一人一人にあひ奉り給ひね』と言へば、かぐや姫言はく、『よくもあらぬかたちを、深き心も知らで、あだ心つきなば、後(のち)悔しきこともあるべきをと、思ふばかりなり。
世のかしこき人なりとも、深き心ざしを知らではあひがたしとなむ思ふ』と言ふ。
翁言はく、『思ひの如くも、のたまふかな。
そもそもいかやうなる心ざしあらむ人にか、あはむとおぼす。
かばかり心ざしおろかならぬ人々にこそあめれ』
かぐや姫の言はく、『なにばかりの深きをか見むと言はむ。
いささかのことなり。
人の心ざし等しかんなり。
いかでか、中に劣り勝りは知らむ。
五人の中に、ゆかしきものを見せ給へらむに、御心ざし勝りたりとて、仕うまつらむと、そのおはすらむ人々に申し給へ』と言ふ。
『よきことなり』と受けつ。
[現代語訳]
五人の姿を見つけた竹取のおじいさんは、かぐや姫にこう言った。
『わしの仏とも言える姫、貴女はこの世の人ではありませんが、ここまで大きくなるまでお育てした私たちの気持ちは並々のものではありません。
このじいさんの言うことを聞いては貰えないだろうか。
』と。
かぐや姫は、『どんな事でもおっしゃる事を断るわけがございません。
私は自分が異界の者だなどとは知らず、貴方のことを本当の親だと思ってきたのですから。
』と答えた。
翁は『嬉しいことを言ってくださる。
』と言った。
『わしも七十歳を超えました。
今日とも明日とも知れない命です。
この人間の世界では、男は女と結婚をして、女は男と結婚をするという事になっています。
結婚することで子孫も栄えていくことになるのです。
ですから、どうして姫がこのまま結婚しないでいられるでしょうか。
』
かぐや姫が、『どうして、結婚などということをするのですか。
』と聞くと、『異界の者とはいえ、姫は女性の身体を持っておられます。
わしが生きている間は、このように独身でいられるのですが。
五人の貴公子の方々が、このように長い期間にわたって通い続けていることを思って、一人一人にお会いになられてみてはどうですか。
』と翁が答えた。
かぐや姫は、『私は大して容姿が良いわけでもないので、相手の本心をよく知らないままに結婚して、浮気心を出されたりすれば、きっと後悔してしまうだろうと思っています。
世の中でどんなに素晴らしいとされている方であっても、相手の深い愛情を確かめずに結婚することはできないと考えています。
』と言った。
翁も言った。
『わしの思っている通りのことを良く言ってくださった。
ところでどのようなお気持ちを持っている相手と結婚されるつもりですか。
五人の貴公子たちの愛情はどれも深いものですが。
』と。
かぐや姫は、『それほど特別な愛情を確かめようというのではないのです。
ちょっとした愛情の現れなのです。
五人の方々のお気持ちは同じでしょうから、どうしてその中で優劣など付けられるでしょうか。
五人の中で私に素晴らしいものを見せてくださった方を、愛情が深い方だと判断して結婚しようと思っていますので、その旨を彼らにお伝え下さい』と言った。
『それは良い考えである。
』と翁も承知した。
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